今年のセンター試験の地理Bでムーミンの舞台を問う設問が出て、巷では大いに話題になった。ダメっ子も、それについて、このブログで一言書いた。
最近ようやく、この話題も落ち着いてきたが、大方の意見は「この設問は悪問だ」ということだったと思う。
1月22日付けの日経新聞のコラム「春秋」でも、以下のように述べられていた。
大学入試センター試験で、地理の設問にムーミンが登場し話題になっている。北欧に関連する2つのアニメをノルウェー語、フィンランド語のいずれかに結びつける内容だ。実はムーミンの原作はスウェーデン語で書かれている。詳しい学生なら「正しい選択肢なし」と答えたかっただろう。いささか罪作りな問題だった。
うーん、ダメっ子は教育者ではないので、入試問題にあまりこだわりがあるわけではないが、この設問の問題点を取り違えている人が多いようなので、今更ながら整理してみる。
まず、試験当日に一番最初におかしいと声を上げたのは、受験生たちだった。
ツイッターなどで多くの受験生が訴えていたのは、「なんで、ムーミンなんて昔のアニメのことが受験問題で問われるわけ?(できなくても当然じゃん)」ということ。
確かに大学に入学するために、ムーミンのことを知っている必要があるとは思えない。
そこで、実際はどんな設問だったのか見てみると、次のようなものだった。

以前のブログでも述べたが、これは別にムーミンに関する知識を問う問題ではない。与えられた情報と持っている知識から、別のことを推察する能力を問う問題である。出題の形式としては、単純に知識を問う典型的な受験問題とはやや異なり、工夫されていると思う。
そういう観点で見ると、試験当日に聞かれた受験生の苦情の多くは、正解できなかったことを設問のせいにした責任転嫁だったと言えるかもしれない。
そして、上記の日経のコラムについて言えば、筆者は出題の意図をくみ取れていない。実際に問題を解いてみたのかどうかも怪しい。ここで求められているのは、「ムーミン」と「フィンランド語」を結び付けることではなく、「フィンランド」と「ムーミン」および「フィンランド」と「フィンランド語の文」を結び付けることだからだ。ムーミンの原作がスウェーデン語で書かれていることは、この出題の正解とは関係がない。
大阪大学外国語学部スウェーデン語専攻の教員たちが指摘したように、この設問の問題は、ムーミンやビッケの舞台がフィンランドやノルウェーだったと明確に判断できる材料が原作やアニメにないにもかかわらず、ムーミンがフィンランドの作家が書いた作品であることや、バイキング=ノルウェーのイメージがあることから、短絡的にそう判断してしまい、設問の前提としてしまったことだ。
そしてこの設問は上記の短絡的判断により、「ステレオタイプに当てはめて物事を見るあまり、世界の言語や文化の多様性を見誤ってしまう」という日本社会全体に共通する問題を図らずも浮き彫りにしてしまった。そういう意味で、大いに問題がある設問だったと言える。
しかしその問題は、出題の形式や狙いとは別の次元のものであり、正解にたどり着けなかった受験生を哀れむ理由にはならない。
ダメっ子は出題者の肩を持つつもりは別にないが、世間で「ムーミンの問題=悪問」と短絡的に決めつけられているのは不当だと思ったので、非難すべき点と評価すべき点を切り分けて、あえてこの話題をもう一度採り上げてみた。