うちの一人息子は今、中2だが、小学4年生のとき(4年前)ハーフマラソンを完走した。
普通、小学生のマラソン大会の距離は1~2キロ程度。長くても3キロくらいで、5キロ走らせることすらめったにない。ハーフマラソンの大会はどれも当然、大人向けだ。
それなのに、なぜハーフマラソンを走らせたかというと、息子は当時、勉強もスポーツもできず、いじめられがちだったので、他の人にできないことを達成して自信を持たせるとともに、周りの子どもや大人にも息子の力を認めさせようと思ったからだ(出場年齢の下限が制限されていない大会を見つけるのが大変だった)。
その頃は毎朝、僕と3~4キロ走っていたので、他の子よりも走るスタミナはあった。新横浜で行われる「よこはま月例マラソン」で10キロを完走したこともあった。
長い距離を走る訓練をしばらく続ければ、21.0975kmを走りきることができるかもしれない。そう考えて、4月頃から週末に走る距離を少しずつ伸ばし、10月初旬のハーフマラソンに備えた。
子どもといっしょに走ったことがある人は分かると思うが、子どもというのは元気に走り回るが、長い距離を淡々と走るのは苦手な生き物である。大人にとって、ハーフマラソンを走るのは、まったく運動していなければ厳しいが、ある程度、継続的に走っていれば、さほど難しいことではない。しかし、こうした特性のある子どもにとって、ハーフマラソンを走るのは、大人にとっての100kmマラソンと同じくらい、あるいはそれ以上に過酷なことかもしれない。
夏の暑い日も、途中でコンビニによって冷たい飲み物を買って休んだりしながらだが、ほぼ毎週、土曜か日曜のどちらかに10km前後走り続けた。
そして9月にはアップダウンのある近所の緑道1周14キロ少々を走れるようになった。あとは本番で根性を出せば、走りきれるだろう。
そう思っていたところ、予想外のことが起こってしまった。大会の2週間前にひどい風邪(マイコプラズマだったかも)をひき、1週間寝込んでしまったのだ。風邪が治ってから再び走り始めても、体力はなかなか回復せず、きびきびと走れない。
当初はキロ6分半くらい(2時間17~8分)で完走できるかもと思っていたが、計画を下方修正することにした。
風邪が治って1週間で本番を迎えた。天候はまさかの暴風雨(当時からダメっ子は雨男)。現地についたら雨をよける場所がなく、着替えなどに苦労した。
カッパを着て、シューズにも防水スプレーを掛けたりして、完全防備で僕と一緒にスタート。

ゆっくり走ればよいとはいえ、雨と風が結構キツイ。ときどき、息子の好きなポケモンの話をしたりして、気を紛らわせながら走る。
ペースは子どもにとってはちょうど良かったと思うが、僕にとっては遅いので、雨の中を長く走っていると体が冷えて、何回もトイレに立ち寄ることになった(それで息子のペースを乱してしまうダメっ子なのだった)。
このレースは周回コース。確か1周7キロ弱のコースを3周ちょっと走った(もう昔のことなので記憶が曖昧)。なので奥さんの応援を何回も受けることができた。息子は2周目の半分くらいまでは余裕で走っていたが、3周目に入る前から、疲労でぐだぐだモードになってきた。
そこへ、それまで少し収まっていた雨脚が再び強まり、猛烈な向かい風も吹いてきたものだから、息子は思わず絶叫。
「向かい風さんのバカー!!」

しかし、残り1.5キロくらいになると、息を吹き返し、最後はスパートしてゴール!

えらい!雨の中、よく頑張った!
帰りは車の中で爆睡だった。
こうして、周りの子が成し遂げたことのない「大偉業」を達成したわけだが、その価値は残念ながら、家族以外のほとんど誰にも理解されなかった。
冒頭に書いたように、大人は少し練習すればハーフの完走くらいはできるので、大人たちの反応は、(子どもにしては)頑張ったね、という感じ。いじめ問題で相談していた小学校の先生方も、お疲れ様、という程度。
小学校の体力自慢のいじめっ子たちに至っては、ほとんどが「それくらいオレも走ったことある。家から●●駅(隣の駅)まで走ったんだぜ!」「オレもサッカーのグラウンド10往復したから、お前より長く走ってる」といった反応だったらしい。おい、お前ら、それ2キロしかないぞ(怒)!
そう言えば、完走後に会場で記念撮影に応じてくれたゲストランナーの元選手たちだけは、マジでビックリしてた。
そんなわけで、苦労の割に得るところの少ないハーフマラソン完走だったかもしれない。あのとき周りのみんながもっと驚いてくれれば、息子の自信になったんだろうが。ちなみに中学生になってから、息子は走ることから距離を置き、剣道をやっている。
やはり、当時からやることが的外れなダメっ子なのであった……