一流の翻訳家の訳文を原文と比べて読むと、ううむ、さすが・・・と唸ることがままある。
近年、AIの発展が著しく、翻訳者の仕事はコンピューターに取って代わられると言われているが、原文の形だけからは、ちょっと出てきそうにないプロ中のプロの訳文をみると、これは当分、コンピューターにはできないでしょ、と思う。
逆に、受験勉強の英文和訳の延長に過ぎない「単語の置き換え」の翻訳は早晩、AIに駆逐されるだろう。
これから数十年、翻訳者として生き残ろうと思ったら、AIに当分追いつかれない技量を持たなくてはならない。
一流の翻訳家のどこがすごいかと言えば、一つは、原文の意味をとることに全身全霊を込めているところだ。単に原文の論旨を追うだけではなく、著者がなぜその表現を選んだのか、なぜその単語を選んだのか、というところにまで意識を向けて、原文が伝えるメッセージをくみ取ろうとしているのだ。
そしてもう一つの違いは、くみ取ったメッセージをできるだけ忠実に訳文で再現しようとしているところだ。原文で使われている表現や単語の持つ微妙なニュアンスを伝えるには、どのような表現や単語を使ったら良いのか、深く考えていると思われる。
ダメっ子が携わる実務翻訳の世界では、日々、厳しい納期に追われるため、そこまで徹底して考える余裕はないかもしれない。
しかし、原文の構造と語彙を訳文の言語に置き換えるだけの「置き換え翻訳」に陥らないように、まずは原文の著者のメッセージをできるだけ正確に深く読み取ることに注力したい。メッセージを明確に受け止めれば、それを正確に伝えたいという欲求が働き、それが良い訳文をつくるエネルギーになることを期待する。
こういう意識を持てば、仕事がより楽しくなって、やればやるほどクオリティーが上がっていくかも。頑張ろう~。