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伝わる訳文を書く

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仕事の資料として金融レポートの翻訳を読んでいると、どうも内容が頭に入ってこないことがよくある。

もっと集中して読まないといけないと思い、単語や構文に注意しながら読んでいたら、内容が頭に入ってこない理由が、おぼろげながら分かってきた。訳文に問題があるのだ。

分析すると、分かりにくい訳文も、たいてい構文はきちんとしている。常に原文と照らし合わせるわけではないが、訳文から原文の構文が透けて見え、フレーズごとに非常に正確に訳出してあるのだと思われる。

では、なぜ内容が頭に入ってこないのか。分かりにくい訳文には、次のような特徴があることが多い。

第一に、英語の名詞的表現をそのまま日本語でも名詞的表現にしているので、硬すぎてイメージが湧かない

例えば、

The central bank would likely announce the calibration of its policy instrument beyond the end of the current asset purchase program.

という原文の太字部分を「資産買取プログラムの現行期限以降に関する政策手段の調整」とすると、一読したときに「ん、どういうこと?」となって読み直さなければならない。「現行の資産買取プログラムが終了した後の政策手段を調整すること」のように、あまり冗長にならない程度に動詞的表現を織り交ぜて書き下すと読みやすくなると思う。

第二に、分詞構文など文頭の長めの副詞句が、そのままの位置で訳出されていて、主語がなかなか分からなくてもどかしい。英語では、文のリズムを取る意味合いでそうした表現がよく採られるが、日本語では動作主を最初に明らかにした方が落ち着きがよくなる。

例えば、

Concerned about the risks that would occur in those situations, we expect…

といった文の場合、「そのような状況で起こりうるリスクを懸念して、当社は…」とやるよりも「当社は、そのような状況で起こりうるリスクを懸念して」とする方が、全体の流れとして分かりやすくなることが多い。この例ではあまりメリットが感じられないが、副詞句がより長い場合は効果があると思う。また、段落の初めの文だと、唐突な感じを回避することができる。

第三に、名詞を修飾する部分が長すぎる。「修飾先」がなかなか決まらなくて不安になる(笑)。英語は、前からは形容詞で、後ろからは関係詞で名詞を修飾できるが、日本語は前からしか修飾できないので、このようなことが起こりやすい。

例えば、

convincing signs of a sustained convergence towards levels compatible with the central bank’s inflation aim

というフレーズを「中央銀行のインフレ目標に整合的な水準に向けた持続的な収斂を示す説得力のある兆候」と訳すと、「兆候」にかかる修飾句が長すぎて、よく考えないと内容が分からない。しかもその修飾部分に名詞句が多く含まれているので、なおさら分かりにくい。「インフレが中銀の目標に相応する水準に向けて持続的に収斂していることを示す説得力のある証拠」とすると、修飾部分が長い問題は解消できないが、多少読みやすくなる。

第四に、前の文の末尾で関係詞を含む節で説明した内容を、次の文で補足するような原文のとき、訳文では、関係詞の節→関係詞で説明される名詞→原文の文頭の部分、という順番になっている。こうなると補足になる次の文と、補足の対象となる部分(前の文の関係詞で説明される名詞)との距離が離れてしまうので、分かりにくい。

例えば、

The company raised concern about the fourth quarter earnings, which is due to be announced on next Friday.  On the same day…

という文の流れのときは、「同社は、来週金曜日に発表予定の第4四半期決算について懸念を引き起こした。同日には…」とするよりも「同社は第4四半期決算について懸念を引き起こした。決算発表は来週金曜日の予定。同日には…」とした方が、「同日」が指す日付が近くにあるので分かりやすい。この例は単純すぎて、その効果があまり感じられないかもしれないが、関係詞の後の節がもっと長い場合、こうした処理は効果を発揮する。

悪い例で挙げたような、原文の構文をキチっと反映した訳文を書くのは、原文に書いてある語句をそのとおりに日本語に置き換えればいいので楽なのだが、書いていて面白くない楽なのに苦痛なのだ。そして、このような訳文は、読むときに構文の把握に意識をかなり使うので、読むのも苦痛である。ちなみに、翻訳がつまらなくなって翻訳業から足を洗った人は、こうしたワークフローにはまったのだと思う。

逆に、構文にとらわれすぎず、原文に書かれた内容を日本語で「伝える」ということに意識を置いて訳文を書くと、翻訳が創造性の高い作業になり、楽しくなる。そうしてできた訳文は、おそらく読んでいても構文の解析に頭をあまり使わなくて済むので、内容が頭に入ってきやすい。そんな訳文が書けると、まさに快感である。

伝わる訳文を書く! それを目標にしよう。

そのためには原文を徹底的に深く正確に理解する力と、原文の構造に引きずられずに自然な日本語が書ける強靱な執筆力が求められる。

まだまだ鍛錬が必要だ。頑張ろう。

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